「すぎやま」は、むかしは、なんもないさびしいとこじゃったと。
夜さり、酔っ払って通ろうもんなら、もんも(※)があらわれて「酒も、ごっつぉ(※)も、持っとるもんみんな置いてけや。」
と言って、痛めつけひどい目にあわすがじゃと。たぁざみのあんち(※)も、夜さり釣ってきたぼうぼ(※)をみんなとられて、命からがら逃げて来たがじゃと。親のいうことを聞かん子どもを見つけると、連れていってしもがじゃと。
ほやきに、在所のもんは、しらこべが出ると言って、日が落ちると、おとろしがって誰も通らなんだとい。
※もんも…おばけ
※ごっつぉ…ごちそう
※あんち…あんさま、兄
※ぼうぼ…魚
そん時、玄応義明(げんのうよしあき)と言って、前田の殿様の足軽頭じゃったが柔道が強く、肝っ玉の据わった巡査が半浦にやって来たがじゃと。かあかは「こんの」と言って、子どもが4人もいたがじゃとい。「義明」と言うがあんか(※)で、「たあた」と「ももこ」と言う二人の娘がおって、「清治(せいじ)」と言うがおじこっぱ(※)やったとい。
※あんか…長男
※おじっこぱ…弟
玄応巡査は、しらこべの話を聞いて
「よっしゃ、俺がその正体をはがしてやろう。」とやがてのこと。よさりになって「ふりや」のばぁーた(※)から釣ったぼうぼをぶら下げて、でっかい声で歌をうたいながらあいで来ると、真っ白で一つ目の小僧のような、しらこべがバシャンと現れて
「こらっ、そのぼうぼ、みんな置いてけ。置かにゃ、ひどい目にあわしるがやぞ。」
「なんじゃって、われゃ何もんじゃい。」
「おれゃここの主じゃ。」
「おどれゃ、こしゃくな。」
双方はむんずと組んで、いっときもみ合っていたがじゃと。やがてのこと。玄応巡査は
「やあ!えい!」
と掛け声もろとも、柔道の極意で、ずっと離れた「デベソ端」まで投げ飛ばしたがじゃと。そしたらしらこべは、
「コオン、コオン、ギャォー。」
と言って、デベソ端の岩に頭をぶっつけて、くたばってしもたがじゃとい。
もんも(しらこべ)の正体は、ひねた白狐じゃったとい。
それからは、玄応巡査の武勇伝が、そこらじゅうに広まったがじゃと。
※ばぁーた…海岸
そん時、石崎の在所に、悪賢く、道楽もんの「そうま」というわろ(※)がおって、沖へ漁に行くのが嫌になると、家から出掛けに、そこら辺の小屋の隅っこへ、こっそり火種を放り込んで行くがじゃとい。やがて、沖で漁を始める頃になると、
「火事や!火事や!」
という騒ぎで、みんなは在所へ飛んで帰ると、そのどさくさに紛れ込んで、どろぼうしておったがじゃと。そうまは、悪賢いわろやったから、なかなかつかまらなんだけれど、しまいに捕まって縄に縛られても、すぐに抜けて逃げてしもたがやじゃとい。そうまは、足が速いから、川の上でも沈まんうちに走って渡ったちゅうがやから、忍術使うたがじゃとい。
※わろ…男
なんべん縛られても、するすると縄抜けして、逃げてしもうもんで、よわってもて玄応巡査に
「何とか捕まえてくれ」
と言うことになったがじゃと。それを聞いたそうまは、
「島の巡査ぐらい、へのかっぱじゃ。」
と威張りくさっていたがじゃと。
玄応巡査らちゃ、そうまの油断をみすかして、取り押さえ、両手と体をしっかり縛り付けたがじゃと。そうまは、ちょっこしも慌てず、 「今に抜けてやるわい。」
とたかをくくっていたがじゃが、玄応巡査の縛った縄を、どうしても抜けられず、とうとう観念してもたがじゃと。
ほんまに玄応巡査は、縄をちゃんと水でぬらしてあったがじゃといか。そいがじゃわい(※)。
※そいがじゃわい…そういうことである
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